冒険に遅刻決定【ネタバレ】 |
前ので熱く語りすぎたので、今度はさらっと。 ドワーフ宴会のあと、ビルボ・バギンズにいやがらせ(笑)しつつ、ドワーフの大変すばらしい家事能力が発現され、宴会の片付けは驚異的に終了する。 このときは、ドワーリンがヴィオラ(ヴィオール)を弾き、ボフールがホイッスル。 原作ではドワーフは全員楽器を持っていることになっているのだけれど、音楽を愛している流浪の民設定は、暢気で食べ放題が趣味のホビットとは大きな違い(笑) このあたりは、原作の雰囲気がうまく伝わる、いい場面が続く。 しかし、ビルボのストレスも最高潮、いったいなんで、ガンダルフはこんな「やつら」を我が家へ集めたんだ!?この理不尽加減は、「物語」の重要な鍵、ある種の「デウスエクスマキーナ」じゃないだろうか。 もちろん、背景にはガンダルフの深謀遠慮(には思えない、ただの直観、でもイスタリとしての直観なら許せるかな?)があるのだけれど、実はもっとすごい「運命」だったわけだし。 さらっとしようと思っていたけど、もうちょっと熱く語ってみておく。 物語の力とは何か。 良い本とはどういうものか。 トールキンの著作にもあるけれど、物語とは「繰り返し起こる事象に意味を作ること」でもあると思う。 人間は、おこったこと、聞いたことのすばらしさを、伝えたいという心と力がある。 物語は、その心によって作られる製作物であって、悲しみでも喜びでも、心動かされたある記憶や経験や伝承でできあがっている。 物語は、語られるたび、本であればページをひらくたびに、その体験を実感できる。 よい物語は、何度でも楽しむことができる。 『指輪物語』も『ホビットの冒険』も、良い物語のひとつで、だからこそ世界で愛されているわけだ。 PJは、そのことを、映画という形で実現したと思う。 「ロード・オブ・ザ・リング」から「ホビット」がただの連作映画ではなく、物語を開くのと同じ喜びが、今回の「ホビット」にはあると思う。 ただし、PJの、とことわっておくけれど(笑) ビルボのストレスを放置してはいけない、さあ、トーリンの登場だ。 重厚な登場のくせに「2度も道に迷ったぞ」はないだろう(笑) これほどえらっそうな迷子はいないぞ。 「扉の刻み文字がなければ、わからなかった」いやいや、ここはお山の一番てっぺん、迷うはずがありません。ここが一番高い一等地ですよ、統領。 *サントラの普通バージョンCDは、この刻み文字が入ったビルボの家のドアのイラストになっている。 スペシャルバージョンのサントラCDは、はなれ山への地図のスマウグが飛ぶあたり。 とにかくトーリンはえらっそう。トーリンが19世紀の人だったら、特大カイゼル髭を蓄えて「ムスタッシュの会」会員になったであろう。(ムスタッシュの会とは箱根富士屋ホテル創業者も入っていた万国髭倶楽部です 笑) ビルボは、ドワーフ一党にはすでに「忍びこむ名人」(日本語でも忍び)と紹介されていて、ビルボは鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、しかし、ドワーフ王国と谷間の国の滅亡、そして王家の末裔である(ただのドワーフじゃないのだぞ)トーリン、という、ホビットの日常からかけはなれた、実はずっと憧れていた「華々しい非日常」の物語に夢中になりつつある・・・ 王国エレボールへ入る秘密の入り口と鍵がガンダルフの手品じみた手元からあらわれ、さて、ビルボ、君がなぜ必要かというとだね、とガンダルフがドワーフ全員に「魔法使い」力の片鱗で(ただの癇癪かもしれないけどw)圧倒する。 原作『ホビットの冒険』と『指輪物語』も、物語(神話でもいい)の約束として「繰り返し」が何度でも起きる。 ビルボもフロドも、ガンダルフの来訪によって予期せぬ旅へみちびかれる。 途中の危険をへて、裂け谷へいきエルフ(上古の知恵)と出会う。 映画「ロード・オブ・ザ・リング」で、老ビルボに指輪を手放せようとするガンダルフが一瞬みせる「魔法使い」の真の力、これが、「ホビット」でも「物語の繰り返し」として使われているわけだ。 ドワーフ、特にトーリンはなんとか自分を納得させてビルボが参加するなら、受け入れよう、という態度を見せる。 バーリンの示した契約書をビルボが熟読するところは、バーリン、ビルボの両人どちらにも英国人の気質があらわれている。 バーリンはとても賢く考え深く、とてもいいキャラクターとして表現されている。 原作とは違い、一行のなかでも年長者で賢い人という位置になっている。 バーリンはまた、戦士でありながら契約書を美しい文字で作成できる、職人でもある。彼が取り出す片眼鏡仕様の老眼鏡?は、実用的でありながら美しく、さすが元は地位の高いドワーフの持ち物だ、と思わせる。 契約書の内容にショックをうけて、ばったりいってしまうビルボ。 ドワーフたちは「こりゃだめだ」とすでに諦めモード。バーリンは、いつも運が無いがこれも運命だ、とトーリンに王国と黄金奪還は、命をかけてやらなくてもいいのだと、あなたは指導者としてこれまで立派にやりとげてきたと訴える。 が、トーリンの復讐心と誇りには届かない。 明日は出発だ、とドワーフたちは、故郷への憧れを詠嘆のように歌う。 霧降山脈のかなたへの歌である。 これは秀逸だ。ドワーフキャストの声もすばらしい。(ただし、日本語吹替えではいまいちだった・・・) ドワーフ王国滅亡後に生まれた、王国の栄華を知らない若者ドワーフも、年長者の嘆きに一族の誇りと憧れをかきたてられ唱和する、美しい嘆きのシーンだ。 自分のベッドルームでその歌を聞いているビルボの心には、何がうかぶのだろうか。 この嘆きがどれくらいビルボに伝わるのだろうか。 そして翌朝。 素晴らしきドワーフは、完璧に袋小路屋敷を復元(笑)して旅立ったあとだった。 ビルボは、よし!よし!といつもの静かで平和な自分の住まいに安心する。 ああ、日常だ。ぼくはホビット、何が冒険さ。 しかし、一夜の夢と思い込むには、表現しようのないものが湧き上がってくる。 契約書はフットレストに残っている。 暖炉の熾火のように、心に残ったものはなんだろう? あの歌や音楽、騒々しい、異種族、魔法使い、外の世界。冒険。 さあどうする?バギンズの旦那として朝ご飯を食べるか? 一気にお山を駆け下りていくビルボ! あの、フロド、サム、メリー、ピピンがマゴットじいさんの畑からずらかるときの音楽「マッシュルームへの近道」が楽しくアレンジされ、スタッカートと8分音符と休符で軽快にビルボを走らせる! 「ビルボの旦那さん、いったいどうしなすったんで?どちらへお出かけで?」 「冒険に遅れる!」 …やっぱり、バギンズの旦那は変人だ、とホビット庄に噂をしっかり残して、ビルボは旅立つのだった。 (続く) |
by crann
| 2013-01-15 17:39
| cinema・映画
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