英文学への道。 |
慶應義塾大学の新入生向け公開講座(講演会)にいってきました。 1月には一般向け公開講座にも行っているので、今年は慶應づいているのかも。 さて、慶應といえば伊藤盡先生ですね、もうおわかりのことと思いますが、そうです、ホビットです。 ホビットとその作者トールキンをめぐる文献学的な話を、新入生むけにわかりやすくドアを開いて みせてくれる講座でした。 その最後の質疑応答が、講座全体をぎゅっと圧縮した内容でしたので、まとめてみました。 以下。。。 本日の慶應公開講座で出た質問者は9人。なにかの符号かとおもうと楽しい。最初と最後は司会をつとめてくださった先生なので1人に数えて、ですが。 第1の質問。司会先生から。 トールキンとトルキーンはどちらが正しいか。 先生:頭にアクセントがくるので、とーるキーン。キーンと伸ばすのは正しいが、日本人は長音のほうにアクセントをしてしまうので、と-るキーンとしたほうが近いでしょう。 第二の質問。スマウグ以外、ベオウルフ等古英語などの中世文献からの引用と思われるのはどこでしょうか? 先生:ゴクリ(ゴラム)とのなぞなぞ問答は、「ソロモンとサテュリヌスの問答」からの引用があります。(聞き書きなので書名は違うかも) 第三の質問。エルフ、ドワーフなどの「姿(形状)」を決定したのはトールキンだと言われていますが? 先生:近代の解釈として妖精たちが弱弱しい儚げな存在となったのを、中世の文献から再び力ある存在として復活させたのがトールキン、といえるでしょう。 第四の質問。1映画ホビットのなかでトロルのセリフはtodayが「トゥダイ」と訛っていたがこういう場合はどのように翻訳するのか。2エルフの言葉やガンダルフの言葉は古英語の発音と似ているのは? 先生:1の回答として。原作(英語)も訛った表現になっているのでそれを生かした翻訳に考えます。 先生:2の回答として。子音が鋭く聞こえるのと有気音のせいです。エルフたちが話すのはシンダリン、これはウェールズ語から考えたようです。ガンダルフが話しているのはクウェンヤ、こちらはフィンランド語の影響をうけていると思われます。 第五の質問。英文学はシェイクスピアをはじめたくさんの古典テクストがあるにもかかわらず、トールキンが20世紀にわざわざ古典的な文体でホビットを著したのはなぜ? 先生:シェイクスピアも十分理解したうえで、トールキンの好みは近現代文学ではなく中世だった。(現代文学は人物の思考や思想が表現されます)しかし、中世的な思考を現代人に中継するためにあえて近代的現代的な表現上の工夫をしたところもあります。 第六の質問。先生ご自身が「発音する」のが好きな言葉は? 先生:Dreamは、現代語ではドリーム夢ですが、古英語では「ドレアム」喜びという意味です。そして現代アイスランド語では「ドレイムル」と発音します。(言葉の意味の変遷もふくめて)この言葉が好きですね。 第七の質問。(この質問はとても繊細で難しい質問でした、ご承知を)瀬田先生の翻訳をどう思われますか? 先生:瀬田先生の翻訳は名訳、名調子です。音読に真価が出る。誤訳もあるがその点を新訳と比較しても、どこまで英語に沿うかどれだけなめらかな日本語にするのか、その2点を抜いた翻訳はない。私は名訳だと思います。(伊藤先生が原文の部分を英語で読み、また瀬田訳で朗読されたことをふまえた質問だったのでしょう) 第八の質問。ホビットには現代の事物を例にあげた表現もあったようですが、そのことについては? 先生:機関車のようにとか汽車のトンネル(?)とか、そういった表現はビルボやフロドの書いた本をトールキンが翻訳するときに「ビルボの気持ちを現代風に翻訳した」ことになっている。版を重ねるたびにそういう表現ははずしていき、指輪物語ではほぼ無くなっている。 第九の質問。トールキン研究にこれから挑むためのアドバイスを! 先生:恩師の言葉を引用します。「トールキンほどの天才はエベレスト級だ。どこから登ろうとどのルートを辿ろうとあれほどの巨人になると、よってたかって攻めてもびくともしないので、安心して登りなさい」。 結論、トールキンはなぜホビットや指輪物語、中つ国の歴史を作ったのか? 純粋に遊びと楽しみもあったはずだけれど、自分がはまった中世の語学、文献学がどれほどおもしろいか、現代に生きている「いま」から不連続ではない時間と空間を「書物」から実感することができる魅力、を若者へ伝授続き)しようとしたのではないか? さあめくるめく古英語、中世の世界へ♪ とびらに鍵はかかっていない、唱えよ「友」と。さすれば開かれん。←これは私の感想(笑) 以上、雑駁メモからでした。間違い多いと思いますのでご容赦を。 |
by crann
| 2014-04-26 23:41
| luccicare・えるべれす!
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